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「彼女の記憶からぼくがそう思っただけだから、確かじゃないんだけど……
ローナはきっと、自分のためにアッキ―に笛を捨てて欲しくはなかったんだよ。
自分のことなんて忘れちゃってくれてかまわないから、自由の身でいて欲しかった。
好きな相手が、自分のせいで自由を捨てるなんてそうそう喜べることじゃないよ。
だから、わずかに残った意思をローナは歌うことに全て捧げたんだ。
せめて、アッキ―がローナのために捨てた笛の分を埋められたらって」
……透の憶測を得て、俺もわかったような気がした。
夫婦の関係をしがらみのようなものと言ったアッキーは、しがらみでも何でもいい、とにかくローナに縛られていたかったんじゃないだろうか。
ローナが彼を想うのと同じだけ、アッキーも彼女を愛しているから。
彼自身は自分が勝手に押し付けたのだと言うけれど、そんな2人はやはり対等の夫婦だった。
「人間の子供だったぼくは意気地なしで、ローナみたいには考えられなかった。
本当は自分の見える範囲の人全てが、うらやましくって仕方がなかったんだ。
ぼくさえいなかったらおにいちゃんは今も家族3人仲良く暮らせたはずなのにって思うけど……ぼくの中のおとうさんの気持ちが、それを否定するんだ。
ぼくのこともおにいちゃんのことも愛しているから、2人とも幸せになってもらいたいから、だからぼくのために死ねるんだって。
おにいちゃんから見たら、きっと、生まれた時からぼくが両親を独占していて、平等でもなんでもないって思ったはずなのに」
「あのさ」
きっと透は、洗いざらい話して楽になりたいのだろう。
そう思ったから、極力口を挟まず静かにしていたのだが、
「これがいい知らせなのか悪い知らせなのか、俺には断定できない。
けど、透が聞きたいっていうなら話すよ」
「どんなことだって聞くよ。
ぼくは、自分のしたことから目を背けない。
そう決めてるから」
透が結論から話すというのがそもそも珍しいから、よほど固い決意なんだろうなと思う。
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