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とりあえず、豊と透の姿が見えない場所まで歩くと、ティアーは俺に向き合い歯を見せて笑うと、石の上に腰を下ろす。
「お散歩っていっても、こんな岩場じゃ敦は疲れるでしょ」
「まぁね。そっちこそ、本当にもうその腕は平気なのか?」
「へへー……あたしも、だてに1度死んでないんだよ。
腕のひとつくらい、こうして生きていられることのありがたさに比べたら小さなことだよ」
そう言いながら、彼女は笑う。
さすがにその表情からは疲れが隠せなかった。
「俺、せっかく強い力を持っていても、何の役にも立ててないよな」
「役に立つとか立たないとか、今はどうでもいいんだよ。
だって、あなたはちゃんと頑張ってるもの。
……敦にはまだ時間があるんだから、焦ることないよ。
今すぐ何もかもしようっていうんじゃなくて、少しずつ出来るようになればいいじゃない」
透が言ったように、人間はいつ、次の瞬間にだって死んでいてもおかしくない。
若いからって時間がたっぷりあるなんて言い切れるだろうか。
けれど、ティアーが俺を元気づけようと懸命に励ましてくれるのが嬉しかったから、
「とりあえずは守られて、少しずつ成長していくって、まるで赤ん坊みたいだな」
冗談めかして言ってみると、悪い意味を込めたわけじゃないと察してくれたようで、彼女は満足そうに笑う。
昔よりは大人になったつもりでいても、俺はいつまでも未熟者だ。
努力できることなんて、きっと一生尽きないだろう。
それに、500年、1000年と生きられる魔物達からすれば、たった16年弱しか生きていない俺なんか、それこそ赤ん坊と大差ないんだろうと思った。
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