領都エリクス

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 翌日、馬車に揺られた俺達は、貴族街を進んでいた。箱馬車の隅の席で突き上げる縦の振動に、尾てい骨が悲鳴を上げているが、それに勝るとも劣らないほどの睡魔に、今はただ耐えて居る。 「……ノート殿、だ、大丈夫なのか?」  そんな今にもぶっ倒れそうな俺を気遣って、オフィリアが俺の名を呼ぶ。半ば朦朧としながらも「うみゅ、らいじょうびゅ」と返事をしていると、隣に座ったセリスが脇腹めがけて肘鉄をくれる。 「グハッ! ……ってぇな! なにしやが――」 「少しは目が覚めたじゃろ」 「……テメェ、下手すりゃ永遠に眠っちまうかと思ったわ!」 「ヌハハハハ! そんなしょうもない嘘が儂に通じると思うてか!?」 「なにぃ!?」 「なんじゃ?!」 「お二人共! やるなら外でしてください!」  一触即発の状態になった所で、セリスのさらに向こうに座った、キャロルさんが中々に低い声音で一喝する。その声にどきりとして二人同時に「「ごめんなさい」」していると、対面に座ったオフィリアがクスリと笑顔を見せてくれた。 「皆様、伯爵家が見えてまいりました」  御者席から声が聞こえ、皆が窓から覗き込むと、綺麗に並んだ屋敷街に一際大きな門が見える。門前には既に連絡が行っていたのか、門兵が居て、俺達の乗る馬車を見詰めていた。 「お帰りなさいませ、お嬢様」  大きな両開きの正門を抜け、馬車が大きな屋敷の玄関先に停まると、綺麗に整列した侍従やメイド達が並び、そこから初老のキチンと正装をしたオジサンが馬車のドアを開け、会釈をしながらそう言った。馬車に階段が付けられ、オジサンが横にずれると、オフィリアを先頭に、ジゼル、俺、セリスキャロルの順に馬車を降りる。  彼女が歩き始めると、そこかしこから「お嬢様」「良かった」「ご無事で」などの声が聞こえ、中には小さく嗚咽を漏らす者もいる。オフィリアはその声に小さく手を振りながら、「ありがとう、もう大丈夫じゃ」と声を掛け、玄関前に立つ綺羅びやかな男の前に向かう。 「……お父様、オフィリア・カイン、只今無事帰宅いたしました。後ろに控えますは、道中我らをお助けくださりました。セリス様と冒険者ノート殿、ギルド職員のキャロル嬢に御座います」  その言葉が出た途端、周りが一気にどよめいた。特にセリスと言う名にだ。それは、この家の当主も同じだった様子で、俺達の前で玄関先に並んだ全員が一斉に跪き、頭を垂れて奏上し始める。 「セリス様とはつゆ知らず、とんだ御無礼を恥じ入る所存。我はこの家の主人、スイベール・カインで御座います! 此度の娘の救済ご助力、誠に御礼申し上げます」 「……構わん。それよりも主人、ここでその様な事、裾が汚れる。まずは案内せい」 「は! 狭い我が家ではございますが、どうぞごゆるりなさいませ」
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