浅井先輩はギャップがすごすぎて困ります

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浅井先輩はギャップがすごすぎて困ります

  五 「先輩、彼氏さんと上手くいってるんですか?」  告白シーンの回想を終えた俺がそう尋ねると、先輩は何故かうつむいてしまった。と同時に、コピー機からエラー音が鳴る。 「あれ、どうしたんだろう」 「開けてみますか?」  この部屋にあるコピー機はかなり旧型で予備のものだ。年度内いっぱいのレンタル契約期限でその役目を終えることになっている。 「インク切れね」 「俺、取ってきましょうか?」 「私が行くから。山本くんはもう帰って」 「もう手伝うって決めたんで」  先輩はため息を吐いてから、コンピューター室を出ていく。俺もそのあとに続いた。備品室はそう呼ぶのがためらわれてしまうほどに古い作りで、廊下の突き当たりにあった。 「相変わらず暗いですね、ここ」  廊下のライトはついているものの、非常階段へ続くこの場所は薄暗い。 「そっか、営業はあまりここ通らないものね」  営業部はこことは真逆の位置にあるため、夜に備品を取りにくるということも滅多になかった。 「評判いいよ、山本くん。がんばってる証拠だね」  先輩が部屋のドアを開ける。入口のすぐ横にあるライトのスイッチに手を伸ばすと、俺と先輩のそれが重なった。 「あ、ごめん」  そそくさと手を払いのける先輩の態度に、また傷つけられてしまう。 「ちゃんと消毒してますよ」 「何が?」  ……これだ。  払いのけたのは無意識で、何も考えてなどいない。いっそのこと『君が嫌いだから』と言われたほうがましだった。俺を突き放しながら、また引き寄せる。先輩は本当にずるい人だ。  一番奥の棚からインクを取り出すと、予備は残り一つになっていた。 「良くここに取りにきたっけ。いつも大事な書類のときになくなるんだよね。お世話になりました」  どうやら先輩は、俺よりもインクの方が好きらしい。  コンピューター室へ戻り、コピー機にインクをセットした。 「先輩、覚えてます? 俺が最初に大きいミスしちゃったときのこと。三百枚を三十枚って勘違いしちゃって。コピーし直してる間、先輩がここでなぐさめてくれたんですよね」 「あれは部長がメモした数字が消えちゃってたんだもん、仕方ないよ。あの頃はまだホワイトボードが脆弱だったよね」 「その日残業してたら、先輩がココア買ってくれて。『どうしてココアなんですか?』って聞いたら『今の時間にコーヒー飲んだら眠れないでしょ』って」 「そんなこともあったっけ」 「そのときから俺、先輩のこと好きです」 「そのときから?」 「はい。今もずっと好きです」 「もう、そのネタはいいから。彼女さんいるんでしょ? 今の営業部長は奥さん一筋だし、変な噂がたったら心証悪くなるよ」 「俺、彼女いないですけど」 「へ?」 「ここ入ってすぐ別れてから、ずっといません」  浅井先輩が目を丸くするところを、俺は初めて見た。 「だって、部長が『山本くんにはつき合ってる人がいるからな』って……」
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