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序章 ー前夜ー
祝いじゃ 祝いじゃ
大龍のむすめがいまに満ちるぞ
齢十五の御祝いじゃ
杉の並木を通りゃんせ
大龍方に参りゃんせ
今宵は祝いじゃ
予祝につどえ
※
真夜中の杉木立。
まもなく日付が変わろうかというこの時分、石灯籠のあわい光が石階段に影を映す。陽気に歌い列をなす百鬼夜行の行く先は、当神社の御祭神──龍神大龍の社殿である。
「遅い時分に押しかけよって」
社殿の縁側に座る真白なウサギがつぶやいた。
黒い目をしょぼしょぼとしばたたかせて門前に列をなす百鬼夜行を見つめている。となりでうつらうつらと舟を漕ぐはホンドタヌキ。
そのタヌキに布をかけてやりながら、ニホンザルが「まあまあ」となだめた。
「みな龍女さまのご成人がうれしいんよ」
「ふあ……ねむいー」
「おまえはもう奥で寝とれよ」
大あくびをかますタヌキに、ウサギは毛に埋もれてわかりづらい双眸をわずかに歪めた。しかしタヌキは、頑として動く気配がない。
「お、ギンのやつ」百鬼夜行の列を見たサルがにんまりわらう。「うまくはけたな」
あれほど石段の中ごろまでつづいていた列が、徐々にみじかくなっている。門前払いをされた者たちはふたたび小躍り、歌をうたって元来た道をもどってゆく。
「あの生真面目オオカミのことじゃ、祝いの品を受け取って体よく追い返しとるわ」
「それがしらも手伝わねば」
「ああ。おいアカ、奥に戻らんのならここで寝とれよ」
「んにゃ、それがしもゆく」
タヌキはむくりと起き上がり、四つ足を伸ばして身体をほぐした。
奥座敷。
部屋の真中に据えられた御簾の奥に、ごそりと動く影がある。
対してその正面に座るは、すべての客を対応して体よく追い返したニホンオオカミである。ここの動物たちはみな一様に朱色の前掛けを首からさげている。
座敷に三人の青年が入ってきた。
「これで祝いの品々はすべてかのう」
「こりゃ龍女さまからしたらほとんど嫌がらせの類じゃな」
「うむ、虫などはあとでそれがしらが食ってしまおう」
と、サル顔の青年がぺろりと舌なめずりをする。彼らは先の三匹が人に化けた姿である。百鬼夜行の祝い品を持ってきた。
ボム、と動物の姿にもどった三匹はオオカミのとなりに座って、品々を御簾前に並べた。
「大龍さま」
「今宵の祝い品はこれにて以上にございます」
「百鬼夜行の親玉には、のちほど返礼の品を手配しますよって」
「紛れていらした神々には八雲の間にてお待ちいただいております」
タヌキ、サル、ウサギ、オオカミがつづけていうと、御簾の奥でゆらり人影が揺れた。──彼こそが主、大龍だ。
「ひと柱、いらぬ客が混じったな」
ずしりと低い声で主はいった。
言われて、芳名帳を見返すサルとオオカミに、そこには載っておらんだろうよ、とつけ加える。
「追い返しますか」
ウサギが首をひねった。
わしがいこう、と御簾奥で主が立ち上がる。それを見たサルとタヌキは、あわてて人に化け、御簾をゆっくりあげる。
「どちらの神がいらしたので?」
オオカミが聞いた。
「天狗の鬼女」
時刻は零時をむかえた。
────。
祝いじゃ、祝いじゃ
大龍のむすめがこれにて満ちる
齢十五の御祝いじゃ
今宵は宴じゃ
予祝につどえ
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