猿も財布を木に落とす

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     秋晴れの青空が広がる、平和な一日のはずだった。  近所のショッピングモールで買い物をするのも、私の週末の過ごし方としては、ごく当たり前の出来事だった。  五階建てのビルであり、例えば婦人服は二階、紳士服や子供用品は三階、本や家電は四階というように、上にはテナントが入っている。一方、一階はモール直営の食品売場になっており、私が利用するのも(もっぱ)らそこばかり。  今日の夕食用の惣菜だけでなく、一週間分の食材なども買い込んで、いざモールから出ようとしたところで……。 「おや?」  エントランスホールでは、並木道を模して、壁際に樹々が植えられている。その一本の根元に、土とは異なる茶色の塊が落ちており、それが私の目を引いたのだ。  近寄ってみると、立派な財布だった。手に取れば、ずっしりと重い。  客の落とし物だろう。落とし主は、さぞや困っているに違いない。  見て見ぬふりは出来ず、私は踵を返して、サービスカウンターへ。 「これ、落ちていました。入ってすぐのところです」 「ありがとうございます。お手数ですが……」  係員の女性から、手続き書類を差し出されて……。 「警察を呼んでくれ! 財布をすられたんだ!」  冒頭の事件に遭遇したのだった。    
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