猿も財布を木に落とす

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     それから二ヶ月後。  すっかり忘れた頃になって、警察から連絡が入った。一人のスリが逮捕されて、たくさんの余罪を白状する中に、例のショッピングモールの一件も含まれていたという。  何度か前科もあるような名うてのスリであり、逮捕された話は、新聞の片隅にも載っていた。写真を見ると、私とは似ても似つかない、猿顔の男だった。 「『猿丸』って渾名のスリでしてね。モールの件については『上手にすった財布なのに、落としてしまったのが悔やまれる』って言ってましたよ。それよりも、捕まった方を悔やむべきでしょうに」  連絡をくれた刑事さんの軽い口調が、今でも私の耳に残っている。  あの事件を思い出すたびに、ふと考えてしまう。  ことわざに「猿も木から落ちる」とあるように、自分の得意分野で失敗するのは、誰にでも起こり得る話だ。  猿顔のスリがせっかくの獲物を落としてしまったのは、ちょうど落とした場所が場所だから、「猿も木から落ちる」ならぬ「猿も財布を木に落とす」であり……。  なんだか可笑(おか)しく思えるのだった。 (「猿も財布を木に落とす」完)    
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