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「はあ。やっと終わった……ちょっと休憩しよ」  一通りの家事をこなし、台所からリビングへと移動してソファーに腰を落とす。落とされた腰は五分後に上げなければならないのだが、その五分だけは背をつけて休むのがルーティンのひとつだ。私は常に時間に追われている。  壁にかけられた秒針のない時計をちらと見やり、さてそろそろ行かないとと自身の腰に鞭を打つ。 「はあ……。疲れた」  朝から──いや、起きた瞬間から疲れている今日この頃。  そしてこの言葉は、仕事からの帰宅後にも心の中で呟かれる。 「ただいまー」 「おかえりなさい」  私が仕事から帰ると、今年十六歳になる息子の悟志(さとし)がお菓子を食べながら録画したテレビ番組を観ている。  悟志の周りのスペースに目をやり、ああまたかと肩を落とす。片付けもせず次のものに手をつけるから、家の中はどんどんと散らかってゆく。毎日のことではあるが、疲れたと心で呟くのだ。 「悟志、夕飯までには片付けてよね」 「はーい」  全くやる気の感じられない返事に今更期待など抱くわけもなく、そしてそれは全て私の仕事になる。    最近仕事も忙しく疲れているせいか、深夜に片付けながら不満がつのる。  一番早く起きなければならない私が、何故一番最後まで布団に入らずに、皆が使ったものを片付けているのか。  そして、就寝前にひとり呟いた言葉はこれだ。 「まじで、猫の手を借りたい」  すると、愛猫のミーが名前通りの鳴き声で返事をくれた。 「あら、ミーちゃん」  私はミーを抱き上げ、肉球をちょんと触って微笑んだ。 「この可愛いお手て、貸してくれる?」 「ミー」 「そっかそっか。ありがとうミーちゃん」  猫の手を借りたいとは言ったが、もはやこの可愛らしさだけで、十分私の心を癒してくれている。
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