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それは、朝目覚めたときのことだった。ふと横に目をやると、夫はまだぐっすりと眠っていた。
若干ギクシャクしてはいるが、自然と布団を蹴り飛ばし腹を出して寝ている夫に布団をかけてやろうとしたとき。
なにか、うっすらと赤い痕が目に入る。
デジャブ。この痕は、昨日見た。悟志の頬にあった肉球のような痕と、同じものだ。
私は急いで起き上がり、何故か慌てて階段を降りる。ひとりソワソワとしながら、ソファーに座り込み考える。
後で起きてきた夫がひとり分の朝食を作ろうとしていたので、三人分作って!と怒鳴り、その間に自分はコーヒーを飲みながら心を落ち着かせた。
おかしい。絶対におかしい。共通点が多すぎる。
赤い謎の痕。急にしっかりとする。無表情。悟志と夫は、いつから様子が変わった?
悟志は、あの朝だ。なかなか起きてこなかった息子を見かねて、私は悟志を二度起こしに行った。その時だ。その時私は、彼の両頬を両手で挟んだ。そして、しっかりしなさいと言った。
夫はどうだろう。あれは、私が残業から帰ってきたときだ。
あの時私は、腹を出して寝ている夫に無性に腹が立ち、その腹を叩いた。そして、自分のことくらい自分でしてくれと言った。
二人の謎の赤い肉球のような痕は、ちょうど私が手を触れた場所なのだ。これは、偶然だろうか。いや、その答えが否であれ肯であれ、なんだと言うのだろう。訳がわからない。
夫は言われた通り、三人分の朝食を作り悟志とふたりで朝食を食べ終えたようだ。
案の定自分の分だけ食器を下げ洗おうとしているところに、悟志の分もついでに洗って!と声をあげ、私も少し不格好に焼かれた目玉焼きをおかずに朝食を済ませた。
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