3

2/4

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「えっと……お風呂は?」 「お風呂はまだ」 「五分後に降りてきて、入っちゃいなさい。その頃には沸くから」 「わかったよ」  私は階段を降りながら、何か心境の変化でもあったのだろうかと考える。リビングに着く頃には、きっと好きな子が良い大学を目指しているに違いない。と、勝手な妄想を脳内でつくりあげていた。  リビングに戻ると、夫はまだソファーでだらしなく眠っていた。  仕事で疲れているのはわかる。その上家のことまでとなると、辛いのも分かる。だが、だからといってあまりにもだらしがない。  洗濯も掃除も頼んだことはないのだから、せめて私の残業の日くらいはしっかりしてもらいたい。  スウェットのすぼんに手を入れながら口をあけ寝ている姿を見ていたら、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。 「ちょっと」  ページを開いたままの漫画を夫の胸元から取り上げ、声をかける。 「ねえ、起きて」  それでも反応がないのを確認し、出ていた腹をぺちんと音がなる程度に叩く。 「いい加減にして!」  ようやく目を覚まし、夫が起動したてのロボットのように起き上がる。 「目が完全に覚める前に文句を言わせて」  私は、夫の返事も待たずに、たまっていた感情を押し付けた。 「遅くなったのは悪かったけど、私だって働いてるの。今日のあなたの任務は確かに夕食を用意することだけだったかもしれない。でも、それを食べっぱなしで片付けもしない、飲んだ缶ビールは飲みっぱなし、テレビはつけっぱなし、脱いだ靴下は今私の足元に転がってる。ミーのご飯にも気付かない。極めつけは、人の漫画を開きっぱなしにして寝てること。私は決して潔癖ではないけれど、人の大切な本の形を崩すだけでなく、何十分もパンツの上に置いた手で、起きてからまたこの本を読むつもりだった? 仕事が疲れるのはわかる。家で休みたいのも、分かる。けれど私は働きながらこの家の全ての家事を毎日やってるの。週に一度くらい、自分のことくらいは自分でやって! テレビや漫画に割く時間や心の余裕があるのなら、少しは私のことも考えて!!」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加