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村井君は私の手をまだ繋いでいた。
私の目の前に立ちはだかる様にして言った。
「江田さん、大丈夫ですか?
具合が悪そうですね。送って行きますから。
ここで待ってて下さい。」
村井君は私の手を離して、優しく背中をさすってくれた。
そんなに酔っていないけれど、酔っている様に見えるのかな。
村井君が居酒屋へ引き返すと、繋がれていた手を見つめた。
急に心許なく、言い知れぬこの寂しさはなんだろう。村井君に見つめられると、締め付けられる様な気分は何?
答えが見つからないまま佇んでいると、ガラガラと扉を開けて村井君が荷物を持って戻ってきた。
私のベージュのスプリングコートを肩にかけてくれた。
「鞄は持って来ましたが、携帯とか忘れ物は無いですか?」
「うん、携帯は鞄から出してないから。」
「それと課長に江田さんを送ってくると言ってきんで、大丈夫です。それじゃ、行きましょうか。
少し歩けますか?」
「1人で歩けるよ。」
「心配なんで。」
そう言うと肩に手を回して、私を支える様に歩き出した。
私は覚束ない足取りになっているのに初めて気付かされた。
年上の私が介抱されているなんて恥ずかしい。
私の肩に回された村井君の手は力強く、彼との距離が近過ぎて恥ずかしさが増して、ますます顔が赤くなっていった。
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