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「さ、そろそろお開きにしよっか。
この後いろいろ話し合いしなきゃいけない人達もおられることですし」
スミレのその一言で、酔い潰れていたはずのメンバーもぞろぞろと起き上がり、帰り支度を始めた。
そして、まるで事前に示し合わせていたかのように、アタシと晃樹を残して、みんなあっという間に姿を消した。
「嵌められたのかな?アタシ達。
みんな酔い潰れたフリしてたってこと?
てか、晃樹は本当に酔って寝てたんだよね?
たまたまあの直前に目が覚めただけで。
えっ?まさか晃樹も最初っから寝たふり?」
「どーだろうねー」
そう言って晃樹はアタシから目を逸らした。でもその目は笑っている。
久しぶりに晃樹の笑顔を見たアタシも、なんだかどうでも良くなり、一緒に笑った。
そして、アタシは、無言で晃樹の前に手を差し出した。
半年前に、友達に戻ろうと話し合いした日の別れ際。
アタシと晃樹は、それまでの恋人同士だった時の別れ際の時にやっていたキスの代わりに、握手をして別れた。
そして今夜。
アタシと晃樹のリスタートは、握手から…との意味を込めて、手を差し出した。
晃樹もその意味を理解してくれたらしく、差し出したその手をそっと握り返してくれた。
さっきスミレに“今は他人同士だから友達からやり直すとか言うなんて、めんどくせー奴だ”と笑われたけど、仕方ない。
他人から友達関係を経るという手順を踏むことで、アタシは再び晃樹と恋人同士になれるって、思ってるから。
アタシは以前、友達+セックスが恋人だと勘違いして、失敗した。
だから今度ちゃんとした恋人同士になるためには、もう一度友達関係を経てから、次に進みたい。
それが正解かどうかは分からないけど、アタシの心の整理を付けるにはに必要なことだと思う。
とかなんか言ってみたけど…。
アタシと晃樹が他人から友達関係に戻れたのは、残念ながらたった3秒間だけだった。
何故かというと、4秒後にはその握った手を引き寄せられて、晃樹に強く抱きしめられて、彼の腕の中にいたから。
久しぶりに感じる、晃樹の髪の匂いや胸板の厚さ、鎖骨のゴツさ。よく動く喉仏。小さな顔に似合わない、大きな耳たぶ。服に染み付いた晃樹の家の柔軟剤の匂い。
晃樹のそんななんでもない部分すら、全部愛おしく感じる。
アタシは晃樹の胸に顔を埋め、自分の中に次から次へと溢れてくる“愛おしさ”という、前回付き合っていた時は気づかなかった感情を、改めて噛み締めていた。
終わり
(二人が最初に付き合ってから別れるまでのお話は、前作『会いたい』をお読みください)
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