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1. 守り刀と対魔師と後輩二人
窓から差し込む光。そして生ぬるい風が、私の意識を覚醒させる。
何度か瞬きをして、その眩さに目を慣れさせる。
体の内側にこもっている空気と共に、
「あっつい……」
そんなセリフを無意識のうちに吐き出していた。
まったく……いくら猛暑日が続くからと言って、朝からこれじゃあやってられないわ!
えー、こほん。気を取り直して。
私の名前は三条 今日花(さんじょう きょうか)。
見た目は一応、花の女子高生(言い回しが古臭いとか言わないで)。
それなりの容姿とそれなり……きっとたぶん、それなりの頭脳。マイブームはスイーツ食べ歩き。
どっからどう見ても平々凡々な十代女子である私だが、一つ大きな秘密を抱えている。
実は私、人間じゃありません。
私の正体は『今剣』――かの源義経が生前使っていた懐刀。
主を失った後、私は長い眠りにつき……目覚めたらなんと、自我を持ち、人間へと姿を変化させることができるようになっていたのだ。
ちなみに、私みたいな自我を持った武具のことを『ブキ』と呼んだりするのだが……まあ、それはまた別の機会に。
そして現在。色々とあって私は新しい主に仕えつつ、人間の生活を謳歌している。
さて、自己紹介はこのくらいにしておいて。
えいや、と布団から体を起こす。
手早く制服へと着替え、腰のあたりまで伸びた髪を櫛で適当に梳く。
そして、築三十年になる一軒家のミシミシと悲鳴を上げる階段を下りて居間へと顔を出した。
「おはよう、義明」
白い半袖のワイシャツに、黒のスラックス。制服の夏服をぴっしりと着こなした、黒髪の男がこちらに目を向けた。
「……驚いた。今日花がこの時間に起きてくるなんて」
「いや、本気で驚いた顔しないでよ。失礼な」
「夏休みの初日だから浮かれてるのか?」
「あんた、私のことなんだと思ってるのよ!」
私のツッコミなどどこ吹く風。彼は私の横を通り抜けると、台所へと入っていった。
このとても失礼な男は、若松義明(わかまつ よしあき)。私の今の主である。
一般的にはイケメンと呼ばれる部類に属する顔をしており、それなりに女子からの人気も高い男子高校生。
そんな彼のマイブームはマイぬか床を育てること。
……あんたはどこぞの主婦か。
彼は自慢のぬか床から出してきたであろうぬか漬けと、卵焼き、白米に味噌汁を乗せた盆を携え、台所から戻って来た。
そのまま盆を私の前へと置く。
「さっさと飯食って出かけるぞ。今日は遅刻できないからな」
「ありがと。もう少し大盛りでいいのよ?」
具体的には白米を。
「太るぞお前」
「私にそういう概念無いから」
「羨ましいことで」
義明はそれだけ言うと、無言で食事に戻った。
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