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私も彼の作ってくれた朝食に集中する。うん……ぬか漬け、美味しいじゃないの。
ぽりぽりと齧っているうちに、起き抜けに考えていたことが頭の中にふと浮かび上がる。
そういえば、義明の家族の話って聞いたことないわね……。
「ねえ」
なんだよ、と義明の視線がこちらを向く。
「あんた、実家とか帰らなくていいの?」
様子見の軽いジャブは、義明の怪訝そうな視線に受け止められた。
「……どうした、藪から棒に」
「いや、夏休みになったわけだし……あんたがこの家を空けることってほぼゼロだから、しばらく帰ってないんじゃないかと思って」
義明は黙り込む。
えーと……あれ? まずった?
フォローをせねば……! と私が一人焦っていると、
「別に、いい」
ぽつり、と一言。
……どうやら、彼と家族の関係はあまり良いとは言えないみたいだ。
ここまで露骨に会話を拒否されるとは。
「まあ、あんたがいいなら、いいと思うけど」
私の口からああだこうだ言えることでもない。
義明は小さく息を吐いた。
「……ほら、さっさと食っちまえ。遅刻したらマズいんだから」
それっきり彼は口を噤んでしまった。
ぽりぽりぽり……ぬか漬けを咀嚼する音が大きく聞こえる。
「……ごちそうさま」
私は箸を進める速度を上げ、静かに朝食を終えた。
窓の外を見ると、夏の空は青く晴れ渡っている。
しかし、この家の中だけは、大いに曇り空のようだった。
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