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何本か大通りと、小さな路地を越えると、この街最大の駅へとたどり着く。
高架の傍にそびえ立つ赤銅色の二十五階建てビルに到着する頃には、私も義明も、すっかりいつもの調子に戻っていた。
早足で歩いていくサラリーマンを横目に、私たちはのんびりとエレベーターホールの最奥へと進む。
ちょうどやってきた一機に乗り込むと、操作パネルに浮かび上がった『20.5階』のボタンを押した。
ぐん、と上へ向かっていく感覚。
ものの数秒で到着したフロアは、とある組織がぶち抜きで使用していた。
その名も『陰陽寮』。
相変わらず普通の会社を装っているが、まさかこんなふざけた会社が実在する訳もない。
陰陽寮。
それは、平安時代に設立された国家機関。
明治時代には表舞台から姿を消した組織ではあるが、裏でひっそりと稼働し続けていたのだ。
日本には古来から、妖怪や霊といったヒトではない存在が棲みついている。
それらのヒトならざるものたちと、ヒトの共生のため、占いや祭祀、時に調伏・調停を取り持つのが陰陽寮の仕事だ。
まあ、妖怪関連の何でも屋といったところかしら。
私と義明は陰陽寮所属の『対魔師』として、妖怪や怪現象絡みの様々な案件に携わっていて、本日もこうして上司からの呼び出しを食らってはせ参じたというわけだ。
閑話休題。
『会議室』や『暦室』といったプレートの下がったドアを横目に通り過ぎ、私たちはフロアの最奥――『筆頭室』と書かれたドアの前にやってきた。
「対魔局所属・若松義明、入ります」
「同じく三条今日花、入ります」
ノックに続いて声をかけると、「入れ」と部屋の中から男の声が答えた。
義明がドアを開くと、中にはスーツ姿の男が二人と、私たちとそう歳の変わらない男子が二人。
そろってこちらに視線を向けてきた。
スーツの男たちは顔見知りである。
ゆえにこちらの態度もフランクになるというものだ。
「来たわよー、晴仁(はるひと)。忠光(ただみつ)も」
「……相変わらずだな、三条。その言動、今さらツッコむ気もせんが」
「私たちの仲じゃないの」
スーツの片方は額を手で覆い、もう片方は肩を震わせている……笑いで。
いかにも「真面目です!」って感じの、神経質そうな男は安倍 晴仁。陰陽寮筆頭――つまり、一番偉い人。
にっこり笑顔が標準装備の柔和そうな男は賀茂 忠光。私たちの所属する対魔局という部署の局長。
二人ともそれぞれ有名な陰陽師の末裔だ。
「若松、お前相棒の面倒はちゃんと見ておけよ」
突然矛先が向いた義明はうげ、と顔をしかめる。
「無茶言わんでくださいよ。俺だって手を焼いてるんですから」
「まあ、今日花ちゃん、考えようによっては僕らより年上だしねぇ。経験値の差かなぁ」
黙って聞いていれば好き勝手いいおって……!
「私はまだピチピチの高校生です!」
「その言い回しが古い」
「だまらっしゃい、義明」
「……はいはい」
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