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「先日の岩融の件を受け、陰陽寮で巡回を厳しくしたのはお前たちも知っているな?」
『岩融』とは、その昔武蔵野坊弁慶が使っていた薙刀で、現代においては私と同じくブキと化している。
何者かに呪詛によって操られた岩融。
そしてその主だった弁慶の霊が人の魂を奪うという、『千人斬り事件』がの件は記憶に新しい。
私と義明、そして陰陽寮の面々が対処にあたり、なんとか事件は解決した。
「ええ、知ってるわ。……でも、その後も呪詛が続々と街中で見つかってるのよね」
「それで陰陽寮が見回りを強化し、対処に当たっている……んでしたよね」
私たちのそれぞれの回答に、晴仁はその通りだ、とうなずいた。
「今日からお前たちにも、その巡回に加わってほしい。天野兄弟も連れて、だ」
「それは別に構わないんだけど……なんでまた、急に?」
今までは、日中は学校があるからとか、色々と理由をつけて免除してもらっていた。
「夏休みになったから、いいように使ってやろうって魂胆ね!」
「人を極悪人みたいに言うな」
眉間の皴をさらに深くして、晴仁が言った。
「情けない話ではあるが、お前たちほど霊力が高く、対魔の力も強い術者は今の陰陽寮には数えるほどしかいない。……お前たちにしか気づけないこともあるだろう」
「呪詛は増え続けているって話でしたからね……早いところ手を打たないと、この土地に悪い影響を及ぼしかねない」
義明の言う通りだ。
呪詛は街に張り巡らされた龍脈を汚す。それは人の心も妖怪の心も惑わせ、再び岩融のような事件を引き起こすことだろう。
百害あって一利なし。さっさと片付けるに限る。
「……俺達にできることがあるかわかりませんが、その命、謹んで受けさせていただきます」
義明の言葉に、私もうなずく。
それを見た晴仁の眉間の皴が、少しだけ薄くなった。
と、その時。こんこん、と扉が叩かれる音がした。
晴仁が声をかける。忠光とその後ろから天野兄弟が揃って部屋に入って来た。
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