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「話は終わったかい?」
「ああ、今しがたな」
忠光は、
「ならちょうど良かった。こちらも準備が終わったよ」
と言うと、天野兄弟に視線を向ける。
「準備って……?」
私と義明が並んで首をかしげると、遠矢が口を開いた。
「見てください、これ!」
ずずい、と目の前に差し出されたのは鞘に収まった日本刀だ。
「さっき、支給品をもらったんです」
といっても、本物の刀ではない。普通の高校生がそんなもの持ってたら、銃刀法違反になっちゃうもの。
これは陰陽寮から支給される対魔武器――霊力を特殊な術で実体化して作られている武器だ。
一般の人間には見えないし、現実世界の物を斬ることもできないのだけれど、それでも遠矢は初めて持った「自分自身の武器」が嬉しいらしい。
キラキラと輝く瞳が、いつもよりも二割り増しくらいで眩しく見えた。
「これを持つと、対魔師って感じしますよね!」
「そういうものかしら……?」
「お前自身が刀だから分かんないだろうけどな、この感覚は」
義明が苦笑いしながらそう口を挟む。
「あれかしら。生まれつき羽を持ってる鳥が、今さら羽をもらっても、なんのありがたみも感じない、みたいなこと?」
「……まあ、お前がそう思うんなら、それでいいんじゃないか……?」
なんか違う気がするけど。
小声のつぶやきに、私も小さく同意した。自分でもそう思った!
ふと、ずっと黙り込んだままだった拓麻が視界に入った。
彼は刀を持っていなかった。
えっと……?
恐る恐る、忠光を見る。視線を受けた彼は、困った風に肩をすくめて言った。
「拓麻君には、対魔数珠を渡したよ。そちらの方が相性が良さそうだったからね」
義明と私と晴仁はそろって、何とも言えない表情で黙り込むしかなかった。
対魔武器にはいくつかランクがあって、各人が扱える武器は霊力の強さによって決まる。
刀は上から二番目くらいのランクに位置し、豊富な霊力を持つ者しか扱うことはできない。
対して数珠は万人向けに作られており、わずかな霊力でも扱うことができるのだ。
つまり、これとそれとではA5ランクの和牛とスーパーで特売の牛肉くらいの差があるわけで……。
「こんなところで世知辛い能力格差を見せつけられるとは……」
義明のぼやきは幸い私にしか聞こえなかったらしいので安心した。刀使い(しかもブキ)のあんたが言ったら嫌味でしかないわよ。
「……とにかくだ。さっき伝えた通り、今日から頼んだぞ」
晴仁が気まずい沈黙を破って、私と義明に向かって言った。
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