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朔夜達との待ち合わせ当日。
予定していた通り少しだけ早めに稽古を上がり、帰宅するとすぐシャワーを浴びる。
近年は昼夜問わず熱帯化が進んでいるため、浴衣を着ていてもさして涼しいと感じることはないだろうと、しっかりと水分を拭き取ってから汗避け用の粉を首元や関節など生地が肌に触れる部分に軽くはたく。肌着も浴衣用の薄地のものを着込み、着崩れがないか寝室の姿見で確認しながら浴衣を着付けた。
帯に煙草とスマホと薄手の二つ折り財布を入れた帯掛けポーチを吊り下げ、扇子を差す。剣道着以外の和装をするのは久しぶりだが、やはり背筋がしゃんと伸びる気がする。各所戸締まりを確認してから玄関で下駄を引っ掛け、外に出ると玄関の鍵を締めた。夏特有の灼けつくような暑さが、頬を撫でる。
「もう夕方やってのにあっついなぁー。夜はいくらか涼しなるんやろか?」
16時を回っているというのに外は煌々と明るく、陽の光も衰えていない。暦の上では立秋を過ぎたはずなのに、秋の訪れはまだまだ遠そうだ。駅に向かい改札を抜け電車に乗り込み指定された降車駅に向かう。
歩く度、カランコロンと鳴る下駄の音が、往き交う人を振り向かせる。
自分のナリが珍しいだけかと思ったが、電車に乗ると華やかな色合いの浴衣を着た人の姿がちらほらと見受けられた。きっと自分と同じ夏祭り会場に向かう人たちなのだろう。降車駅までは急行で10分ほどだ。車窓に寄りかかり外を見つめていると、あっという間に目的地へと辿り着いた列車がホームへと滑り込む。人の流れに乗って降車すると、改札階へと上がり改札を抜け駅舎を後にした。
自分と同じ方へ向かう人の流れについていくような形で歩みをすすめると、段々と人の賑わいが増してくる。会場が近いのだろう。
「四楓院」
聞き慣れた声に名前を呼ばれ視線を向けると、参道の手前──門のところで何人か待ち合わせをしている人が見受けられた。その中で一際目立つ長身の斑模様の浴衣を着た──。
こちらをじっと見つめる双眸は眉一つ動かさずニコリともしないが、それが彼の普通なのだ。
しっかりと顔を見るのは──一週間ぶりくらいだろうか。
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