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祭り日
そのメッセージを受け取ったのは、夏の盛りを半分ほど過ぎた頃のことだった。
送り主は朔夜からで、「志賀や大海原と夏祭りに行くことになった、せっかくだからお前も呼べと言われた」──そう書かれた画面を見て、堪らず噴き出したのは言うまでもない。
休みと聞いてはアルバイトに精を出す彼が、誘われた時にどのような顔をしたのか想像に難しくないだけに、ふにゃりと表情を崩して「勿論行く」──そう返事を送った。
少し間を置いてもう一度朔夜からメッセージが届いた。そこには「私服ではなく浴衣を着てきてほしい」と書かれている。意外な注文だと思ったが、言い出しっぺが志賀や大海原ならこういう流れがあってもおかしい話ではない。
当日は剣道の稽古があるが、少し早めに切り上げれば、帰宅してシャワーを浴び、着替えてから向かっても十分間に合う。「わかった。楽しみにしてるわ」──そう返事を送ってからスマホをベッドの上に置き、寝室のクローゼットに向かうと小さな折りたたみ式の脚立を広げ、ロフトに置いておいた薄箱を下ろした。
浴衣を着るのなんて何年ぶりだろう──少なくとも祖父が亡くなった頃から一度も袖を通していないのはたしかだ。箱を開けると、浴衣と下駄を含めた小物一式が綺麗に収まっている。
着る機会があるかもわからないまま持ってきてしまった露芝柄の浴衣──祖母が亡くなる前に『高校生くらいになっても着れるように』と言い、祖父とお揃いの柄で大きめに仕立ててくれたものである。
「まだ着れるやろか? まぁ背もたいして変わっとらんしいけるかな? あー……人混み行くんやしあんま荷物は持ってかれへんよなぁ。煙草と財布とスマホとー……」
指折り数えて持ち物を確認する。実際に出かけるのは週末だというのに、気が急いてしょうがない。
というのも。
「きっかけはともかく、秋月が誘うてくれるやなんて……そうそうあらへんもんなぁ」
ふにゃりと表情が緩む。
好いた奴からの誘いはどういう形にしろ嬉しいものなのだ。
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