エピソード7

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エピソード7

 店を出た女性は、まだ騒がしさを保っていた繁華街の中を、ゆったりと歩いていたが、思い立ったようにスマートフォンを取り出し、画面を滑らせた。  ほどなくして、道路の水たまりに映った街灯が揺れる。 「どうした!?何かあったのか??」  一人の男性が息を切らしながら、女性に尋ねる。 「いや、何かあったわけじゃないんだけど…」 「?…、じゃあ何で迎えに来てなんて連絡したんだ?」 「………………寂しかったから。」 「はあ?……、珍しいじゃん、そんなこと言うの。」 「…………やっぱ、嫌だった?」 「……本気で言ってんのか?」 「え、だって…」 「嫌なわけないだろ。てか、やっと頼ってくれて嬉しいくらいあるからな。」  彼はそういうと、冷え切った女性の体を抱きしめる。 「あったかい。」 「走ってきたからな。」 「そうじゃないの。」 「……え?」 「あなたがいてくれてよかったってこと。」 「お?、おお!任せろ!」  彼は、不思議そうに意気込む。 「さあ、早く帰ろ!もたもたしてたら置いてくよ。」 「お、おい、ちょっと待てよ。」  女性が駆け出したのを、彼が追いかける。  ちょうどそのとき、彼女の視界の端に一匹の黒猫が映り込んだ。  彼女はチラッと目を向けたものの、そのまま走り続ける。 「ばいばい。」  雨が上がって顔を出したまん丸の月は、二人を、温かく照らしていた。
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