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エピソード2
あれは、確か小学二年生の夏休みの時だったと思います。
当時、九州の田舎に住んでいた私とその友人たちの主な遊び場は、周りに緑が生い茂った、小さな神社でした。参拝客もほとんど来ないような神社でしたので、ぽっかりと空いた敷地内で鬼ごっこやボール遊びをしたり、ガタガタと音が鳴る境内でお菓子を食べたり、自分たちの基地のようにその神社で遊んでいました。
そんなある日に、一匹の黒猫に出会ったのです。
その猫…、、クロとでも名付けましょうか。クロは、野良猫だったのですが、珍しくも人間を警戒するような子ではありませんでした。それをいいことに、ぱさぱさの黒い毛や、ぷにゅっとした肉球を触らせてもらっていましたね。今でも、その時の鼻先をかすめたクロの毛の匂いが忘れられないんです。
クロと出会った日から、私たちの遊び方は一変しました。
いつもボール遊びをしたがっていた男の子も、泥でお洋服が汚れることを嫌がっていた女の子も、我先にと、クロのところに駆けます。クロは野良猫とは思えないほど、本当に可愛らしく、私たちをメロメロにさせていたからです。もはや、アイドルとファンですね。
そして、そんなクロのお気に入りが私だったのです…、自分でいうのもなんですが。ただ、皆もそれをわかっていました。なんせ、私の呼びかけに真っ先に応じたり、皆を無視して、私の足に顔をすりよせたりすることはしょっちゅうでしたし、抱っこをせがむように飛びついてきたことすらあったのです。
その当時の私は、まさに、アイドルに告白されたので、バレリーナのように舞い上がっていました。くりくりと可愛く見つめる瞳、「にゃ~。」と甘くささやかれる声、ピンと真っすぐに立つしっぽ、わたがしのように柔らかいお腹、その全てでクロは、私に「好き」を伝えてくれます。これ以上に幸せなことを、小学生のわたしが知るはずがありません。
それでも、クロを飼うように、親に頼んだことはありませんでした。母が、ペットを飼うことに強く反対で、どうせ許してもらえないだろうと諦めていたのです。そのことに、全く不満はありませんでした。というのも、その神社に行けば、クロに会えたからです。
今でも不思議に思います。いつもはいないのに、私たちが遊び始める時間…たいていはお昼過ぎだったのですが、いつもその時間に、クロは姿を現すのです。「今日は何をするの。」と、まるで私たちを待っていたかのように…、すみません。
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