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エピソード6
女性は、名残惜しそうに、黒色のコーヒーを一気に飲み干した。
「聞いて頂いて、ありがとうございます、なんかすっきりしました。誰にも言えなかった秘密を打ち明けられた気分です。」
「いえいえ、こちらこそ素晴らしいお話をありがとうございます。私もこの店の店主として、似た思いを抱えることがありますので、心を動かされてしまいました。」
マスターが、明るい電灯の下で朗らかに笑う。
「似た思い?」
「ええ…、私の場合はこの店のお客さんなんですけどね…ああ、まあ、自由気ままにお店に立ち寄るという点では、猫のようなものですね。その中でも、急に顔を見なくなった常連さんなんかを思うと、寂しく思います。」
そう話すマスターの顔は、まるで雲一つない青空のように生き生きとしている。
「…たまに、その寂しさに押しつぶされそうになるんです。でも、マスターはそんなことないように見えるんですが…」
おずおずと尋ねる女性に対し、マスターはにっこり笑って、
「いえいえ、私も押しつぶされていますよ。」
「…なんで、そんな風に笑って話せるんですか?」
続けて女性は尋ねる。
「……一言で済ますなら、この寂しさが役に立つときが来ることを知っているからだと思います。」
「マスター、それってどういうことっすか?」
掃除を終えたバイト君が、いつの間にか店内に戻っていた。
「君にはまだ早いかな。」とマスターがほほ笑むのを見て、さらにモヤモヤを抱えるバイト君。
「あ、そういえば、掃除してる途中に、雨、あがりましたよ。出るなら今のうちがいいと思います。」
「あら、そうなのね、ありがとう。お会計してくれるかしら?」
女性はお会計を済ませると、マスターに向かって
「……また今度、ゆっくりお話しに来てもいいですか?」
「もちろん。お待ちしております。」
マスターのスマイルに女性がほほ笑みを返しながら、店を出る。
「ありがとうございました。」「カランコロン」
こうして、また一つの静けさが生まれていく。
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