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さて、あたりには肉じゃがのにおいが漂い、俺たちは遅い昼食を食べていた。ダイニングテーブルの向かいで遥が「うーん」と満足そうにうなる。
「うまっ! やばいこれ! 桜ちゃんマジ天才」
「ありがとうございます。あ、遥さんご飯粒ついてますよ」
位置がよくわかっていない遥に桜が「とりますね」と隣の席から手を伸ばす。
それを目の前で鑑賞する俺。思わず合掌する。
「ごちそうさまです……ッ」
あー、脳内の俺が感動のあまり泣いてるわ。
尊いわー。
途端に2人からツッコミが入る。
「何言ってんの英人、まだ食べてないでしょ」
「冷めないうちにさっさと食べてよね」
この2人の連帯感。ああ、たまらん。通じ合ってる感じがとても良き。
だけど一方は無自覚で、一方は自覚アリの片思い中なんだよねー!くぅー!
俺は勢いよくご飯をかきこんだ。肉じゃがも。確かに美味い。美味いけど心のときめきは目の前の百合に劣る。いいのかこんな特等席有料じゃなくて。
「……ホントごはん何杯でもいけるわ」
「あんたそんなに肉じゃが好きだったっけ」
遥の目は心なしか冷ややかだ。
桜はさっきからそんな遥を横目で見ては頬をピンクに染めている。
「あの、遥さん、私このあとせっかくなんで一緒にお出かけしたいんですけど、新しく出来た駅ビルの服屋さんに……」
「いいねー。お菓子食べたら行こうか」
2人の話が盛り上がる。俺は嬉しくなる。推しカプと同じ部屋にいる幸せ。できれば存在を消して空気の一部と化して遥と桜だけの世界観を鑑賞したいところだ。
ただ、胸に寂しさも感じていた。
お祭り前、どんなに楽しみにしてても、いざ始まってしまうと終わりに向かってカウントダウンがスタートする。久しぶりの百合鑑賞ももってあと数時間だろう。だからこそ。
俺は頭の中でスケジュールを確認する。
また近いうちに妹を呼ぶとしよう。
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