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空
俺には双子の兄がいる。
まぁ、双子なんだから、兄とか弟とかはどっちでもいいんだが。
でも、知ってる人からすれば、完全に俺は弟で海はお兄ちゃん。
小さい頃からずっと、何をしても海にかなわなかった。
かけっこも、お絵描きも、勉強も、お手伝いも。
海はなんでもそつなくこなす。
不器用で負けず嫌いな俺は、そんな海が羨ましくって、いつも真似をしては勝負を挑んでいた。
でも、海はズルい。
俺が海くらいに出来るようになって、追い越そうとすると、海はいつもすっと道を譲るんだ。
決して戦おうとせず退く。
むかつく。
その優しすぎる性格。
周囲のことをよく見ていて、皆がのぞむ立ち位置を自然に演じる。
そればかりは、俺は真似したくてもどうしても出来なかった。
あいつに負けまいと意気込んでいる時点で、すでに俺は負けてるんだ。
いつもそうなんだ。
なんでも出来るくせに、周りに気を使ってばかりで損ばかりしてる。
究極に憧れるけど、絶対に手が届かない存在。
せめて、幸せになってもらいたい。
何か1つでも、俺が海のためにしてやりたい。
しょーがねーな、海。
俺がいなきゃダメだなー
って言ってやりたい。
それじゃなきゃ、いつまでたっても俺が勝てないじゃないか。
「全く。ようやくこれで一勝かな」
二階の窓から道路を眺めると、トボトボ歩く彼女と、それを追いかけるジャージ姿の男が見えた。
2つの影が重なったのを見届けてから、窓を閉めた。
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