さよなら、ボリショイ

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 それからしばらくして、ロシア国内で奇妙なニュースが流れた。  地方で公演中だったボリショイサーカスから熊やライオンなど数頭の動物がいなくなったということだった。  団員も何人かいなくなったという噂もあったが、すぐにこの話は何もなかったかのように消えていった。  そして数ヶ月後。  ウクライナのとある田舎町に小さなサーカス小屋がオープンした。  近くの子供達を集めて、ステージとは呼べないほどの粗末な台の上でショーが行われた。  ステージに上がった熊はジョフ、ライオンはユソアと呼ばれていた。 「ここまで来れるとは思わなかった。ほんとうに奇跡だな」  ジョフは感慨深げに言った。 「そうね。でもまだこれからよ。私たちが頑張らなきゃ。ライルの分もね」  ショーはクライマックスになり、ジョフとユソアは天に拳を振り上げるようなポーズをした。 「世界に平和を!」  少し離れたところでロシア兵とウクライナ兵も見ていた。彼らもまた拳を振り上げていた。  ちょうど同じころ、ロシアのモスクワ近郊で行われていたボリショイサーカスのショーもまさにクライマックスだった。ステージ上に大勢集まる中、端の方にいた年老いた象が何かに応えるように鼻を高々と振り上げていた。  その象はライルと呼ばれていた。  ジョフもユソアもライルも、そして他の動物たちもその思いは同じなのだろう。  ウクライナで、そしてロシアで、その勇敢な雄叫びが聞こえ続けた。                            THE END
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