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1.
「今日から俺、東京の人になるぅ〜♪」
転校初日の朝、俺は小声で歌いながら通学路を歩いていた。
高校3年でまさかの引っ越し、だけど渋る理由なんかない。地方に住んでて東京に憧れない奴なんて、いるわけないじゃん?
「せぇっせ、せっせと東京の人になる〜♪」
サビを歌い終えた俺の横を、突然何かがブアッと通り抜けた。
「わ……っ」
後ろからの風で、メガネが飛びそうになる。思わずツルを押さえた俺の斜め前に飛び出したのは、疾走する学ランの背中。その男の手に光る黒い物体に、目が釘付けになった。
ちょ、待っ、ハンドガン!?
銃器には詳しくないけど、朝日を照り返す銃身は本物に見える。
なんで学生が銃携帯で登校?!
この国の首都ってそんな治安だったのかよ?!
現役高校生殺し屋、そんな言葉が頭を掠める。するとその男が、突然足を止めて振り向いた。
「おい、お前!」
「ひっ!?」
「遅刻すんぞ! 新しいクラスの発表あるから今日は8時登校だって知らねぇのかよ!」
「えぇっ!?」
知らなかった。編入手続きの時にもらったプリントには8時20分始業と書かれていたから、むしろ早く着くつもりで余裕で歩いてたのに。
俺が慌てて走り始めると、彼も動き出した。背が高くて足が速い。つまり、俺とは脚の長さが違うからどんどん離されていく。
俺が校門に着いた時にはすっかり姿を見失い、もう会うこともないかもしれないと思ったが。
彼は3年2組、つまり俺と同じ教室の、一番手前の席に座っていた。
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