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「鼻水には気をつけるけどさ、メガネって呼ぶの、やめてくれる?」
視力の悪い人間にとって、最も忌避すべき呼称だ。あれほど没個性的な渾名はない。
五十里君は少し困った顔をして、首の後ろをかいた。
「でもオレ、友達に伊藤がもういるんだよなぁ」
そりゃあいるだろ、知人に伊藤の一人や二人。こちとら日本で五番目に多い名字なんだから。
どう返せばいいのか戸惑う俺から、彼は目を逸らして呟いた。
「だからさ、雪知……って呼んでいいか?」
「え、いいよ」
「は? マジか、ありがと」
「何が?」
「だってなんかさ、親友って感じじゃんな?」
かわいいかよ。でも、嬉しいじゃんな?
東京弁がうつると共に緊張のとけた俺は、思い切って今朝からの疑問を本人にぶつけてみることにした。
「さっきさ、何か、銃……みたいなの、持ってなかった?」
「ああ、あれな。ナルのお気に入りで」
「ナル?」
五十里君はポケットからスマホを取り出すと、ロック画面を見せてくれた。2歳くらいの子どもが、例のハンドガンを手にポーズを決めている。
「毎朝保育園に連れて行くんだけど、家出る時これ離さなくてさ。園には持って入れねぇから、オレが学校に持ってくるはめになんだよ」
やっぱり玩具だったのか。まぁそうだよな、まさか本物の銃器持って学校に来るわけないよな。
「可愛いね。ナルちゃんて弟さん? いや、妹さんかな」
スモック姿の幼児を覗き込んだ俺。その斜め上から降ってきたのは、斜め上の返答だった。
「いや、これオレの子」
「は?」
「ナルは、オレの子ども」
「ええ……っ!?」
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