童貞のオッサン冒険者になる

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童貞のオッサン冒険者になる

 お金がない、顔も悪い。そして三十才を越えてからは他人と話す機会も殆んど無くなり、孤独を満喫して数十年。  街の図書館で見た、迷宮の魔物が詳細に書かれていた図鑑を目にして考えた。  童貞が捨てられるなら、この際魔物でも良いんじゃないか?  日がな一日、雑用で小銭を稼ぎ、娼館に行く金まで用意はできずに暮らす日々。  一攫千金が可能な代わりに命を対価に挑戦する冒険者の方が、このまま何も得られないまま終わる人生よりマシではないか?  俺は昔覚えた料理の腕を再び磨き上げ、餌付けで魔物を従える魔物使いに転職する事に決めたのだった。  数ヵ月の時が流れ、近くの森で漸く餌付けに成功して従魔にした魔物を従えて、迷宮に挑む日が遂に来たのだ。  最低限の防衛手段を学び、なけなしの財産で装備を買い揃え、冒険者登録が済んで俺は遂に迷宮へと足を踏み入れた。  人型の魔物が現れるのは深層付近。浅い層で経験を重ねながらも従魔を増やし、数の暴力で少しずつ深層へと近づいて行く。  冒険者になって数年が過ぎ、四十才を遂に迎えた頃、俺は初めて人型の魔物と遭遇した。 「此処まで来るのに苦労したが、それもお前に出逢えたことで報われた。人の言葉が理解できるかは謎のままだが、迷宮の中でも魔物を従魔に出来たんだ。必ず従えてみせる!」  人型の魔物。それは女性の身体を持ち、下半身や身体の一部が魔物の姿をした存在。女性の生殖器が存在することを図鑑で読んだ時、俺は雷魔法に撃たれた様な衝撃を受けた。  俺の料理の腕は魔物に通用する。そして中層で餌付けて従魔にした心強い仲魔が居る。最早恐れるものは何もない。 「戦闘不能にするだけで良い。絶対に殺すなよ?」  従魔達に指示を出す。言葉が通じているかは疑問だが、思いは伝わるみたいで俺の言う事には従う。魔物使いは心が通じ合うのだろう。  毎回飯の催促が一番心が通っているのが、些か残念ではあるが。  多勢に無勢、人型の魔物は単体で強いがそれでも戦闘不能に追いやる事に成功する。  活躍した従魔達にご褒美として、普段は与えない燻製肉を食べさせてやる。貪るように嘱す従魔達の喜びが伝わる。 「さて、お前の好物は調査済みだ。俺の従魔になれば、これが毎日食べられるぞ?」  蛙の丸焼きに香辛料をたっぷりと付けて、串刺しにした料理を人型の魔物の目の前でちらつかせる。  身体の自由は利かないが、目と口は動く様で爛々とした瞳に涎が口から垂れ出す。  従魔になると意志が伝わってくる。胃袋が匂いだけで掴み獲れた様だ。口に近付けると、長い舌を伸ばして獲物を捕らえる。口の中で味を楽しみ、丸飲みして胃の中を満たす。  人型の魔物と主従関係が結べた瞬間であった。  名はラミア、女性の身体に股から下が蛇の姿をした魔物である。勿論、下着等着けていないので真っ裸だ。  
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