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 ここ最近、ユイの顔色が悪い。好きなはずの仕事で何か嫌なことがあったのかもしれない。ユイが語らないのであれば、おれは黙って見守るしかない。だから、そんなときは隣で寄り添うことにしている。  だけど、この日はいつもと違った。ユイはだるそうにしながらもおれの正面に座った。 「大福、あのね。会わせたい人がいるの」  そう言って、テーブルの上のスマートフォンを気にしてそわそわしている。画面が明るく点灯した途端、ユイはスマートフォンに飛びつき、耳元に当てた。 「……うん、わざわざ来てもらってごめんね。待ってるね」  どうやらからの連絡だったらしい。ユイは右手の薬指に嵌めた指輪をぎゅっと握り締めるように触れた。たしかあれは、半年ほど前から身につけ始めたものだ。よっぽどお気に入りなのか、何度も眺めては嬉しそうに笑っていたのをよく憶えている。  それから数分して、チャイムが鳴らされた。ユイはぱたぱたと玄関に駆けていき、来客を迎え入れた。ユイの後ろから顔を出したのは、ひょろりとした背の高い男だった。見たことのないやつだ。警戒して部屋の隅に逃げると、ユイが笑いながら手招きする。
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