十、

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十、

 それからあっという間に三日が経った。今日は告白した日も入れて数えるなら五日目だ。  熱を出し貫太が看病をしてくれたあの日は、結局昼になっても熱は下がらず、夜になってようやく微熱程度まで下がった。貫太は和が夕食を食べて薬を飲むまで一緒にいてくれ、翌日に体調を連絡するようにと言い残して帰って行った。  そしてその翌日、熱もすっかり下がった和は、貫太の家に行くべく連絡をした。が、貫太はそれをよしとはしなかった。病み上がりなのだから、と。だからその日も結局、貫太が和の家を訪ねてきた。  以降、和が貫太の家を訪ねるのではなく、貫太が和の家に来るようになった。和がひとりで暮らすこの家の方が、自分の家よりも居心地がいい、とそんなことを言って。  そんなふうにして、和は貫太と毎日会い、いろいろな話をした。といっても、どれも他愛のない、くだらない話題だ。そう。それはまるで高校生活の取るに足らないワンシーンのような。けれど和にとっては、過ごすことのできなかった時間を取り戻すような感覚だった。幸せな時間だった。  ただひとつ難があるとすれば、結局「どうせ」という言葉の続きが訊けずにいることである。なんとなく、訊いてはいけないような気がしてその話題を出すことができなかったのだ。そして貫太もまた、不自然なほどにその話を一切持ち出さなかった。  そうして迎えた五日目の朝である。  この日は貫太の夏休みの最終日でもあった。貫太への宣言では「一週間」とは伝えたものの、実際のところは今日が最終日と言ってもいい。貫太の学校が始まってしまえば、貫太は昼間は学校へ行かなければならないし、和はといえば、昼から夜にかけて仕事に行かなければならない。そしてなにより、貫太は高校三年生なのだ。受験生である貫太に、和の「会いたい」という我儘を押しつけることはできなかった。  そしておそらく、貫太もそれをわかっている。だから、今日のこの提案を貫太も受け入れてくれたのだろう。  今日は、デートだ。初めてのデートなのだ。  一日を貫太に費やせるように、仕事も休暇をとってある。和は早々に支度を整えると、約束の時間まではまだ余裕があるのをわかっていながらもそのまま家を出た。  待ち合わせ場所は駅前だった。ただ、やはり約束の時間には早すぎて貫太の姿はまだない。和はそれまで時間を潰そうと携帯電話を開いた。  と、その瞬間である。タイミングよくそれがぶるぶると震えて驚いた。見れば紺からの着信でまた驚く。紺から電話がかかってくることなど滅多とないのだ。和からかけることの方が圧倒的に多い。 「紺からの電話なんて珍しい!」  電話をとり開口一番にそう言えば、電話の向こうの紺は一瞬驚いたように息を呑んだあと、すぐにため息を吐き出した。 「……うるさ」  低い声でそう言われ、和は思わず笑ってしまう。電話の向こうの紺も外にいるようで、雑音が多かった。が、はた、と気がつく。その雑音にはどこか懐かしさを感じたのだ。複数の男がふざけているような騒がしさ。 「部活?」  和が問えば、紺は「そう」と短く応える。
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