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そんなことを考えてから、和は堪りかね、ぐにゃりと体から力を抜く。膝に手をつき、地面に向かって大きく息を吐き出した。
(せっかくのデートなのに……)
誰にともなく、そんな恨み言を零す。
デートの前にとんでもない話を聞いてしまった。いや、紺にはもちろん感謝している。「どうせ」の続きは、きっと今日のデートの結果、そして今後の和と貫太の関係にも大きく影響してくるものだったから。
(今日が、最後ってことか)
貫太が今日のデートを受け入れてくれたのも、もしかしたら貫太なりの気遣いだったのかもしれない。どうやっても和の気持ちには応えられないからその贖罪に、と。
(先輩は、優しい……)
その優しさが、好きだ。
でも、今このとき、和は初めて知った。優しさは、とんでもなく鋭利な刃にもなり得る、ということを。
和は倒していた上体を起こす。腕時計を見れば、約束の時間まではあと十五分あった。貫太のことだから、きっとあと五分もすれば姿を現すだろう。和はそれを確認してから、今度は空を見上げた。夏らしい、青と白のコントラストが美しく、清々しさすらある空だ。けれどそれは、和の胸の内にはまったく似つかわしくない。
「最後……」
そんな空に向かって、和はぼそりと呟いた。
「最後には、したくないなあ……」
なんだかんだ、甘い考えがあったことは認めざるを得ない。貫太には一週間、と確かに宣言した。けれどもしもこの一週間で貫太の気持ちが変わらなくても、和はそれで諦めるつもりは毛頭なかった。もしこの一週間でうまくいかなくても、もっと時間をかけたっていい、と。
でももしも、貫太が遠くへ行ってしまうとなれば、話は別だ。
(どのくらい遠いんだろ)
(電車で会いに行ける距離なら)
(新幹線でも、まあ……いくらくらいかかんのかな。週に一回、通えるかな)
(まさか、海外なんてことはないよな……さすがにな……)
悶々とそんなことを考えていた、そのときだった。
「早くね?」
唐突に声がかかってはっとする。
貫太だった。
ここ数日で随分と見慣れた顔。いつもと変わらぬ顔。でも今は、その顔を見るだけで胸がぐっと締めつけられるようだった。
(先輩は、今なにを考えてる?)
(どうして今日、来てくれた?)
じわり、と目の奥が濡れる感触があって、和は慌てて貫太から目を逸らした。
「先輩を待たせるわけにはいかないじゃん」
そんなことを言いながら、どうにかいつもの自分を繕おうとする。そんな和に貫太は少し首を傾げたものの、特に口を出してくることはなかった。
「今日はどこに行くんだ?」
貫太のその問いに、和はほうっと胸を撫で下ろす。
(とりあえず、)
和は心の中で自分に言い聞かせる。
(とりあえず、今日は楽しんで、楽しませることを考えよう)
貫太がこれを最後と思っているにせよ、そうでないにせよ、だ。
たとえ遠距離になったとしても、和は自分の気持ちは変わらないだろう、と自信をもって言えた。だって会えない一年が和にはあったのだ。それでも和の気持ちは変わらなかった。
(簡単には、諦めてあげられない)
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