十一、

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「ねえ、」  堰を切ったように、言葉が出る。 「ねえ、俺、これが最後なんて嫌です」  体が前のめる。その勢いのまま、和は貫太の両肩を掴む。貫太は怯えたようにびくりと震えた。それでも、和はその手を離すことはできなかった。必死だった。 「ねえ、遠くへ行ったって、俺は先輩のこと好きだよ。諦められない。だって、ずっと好きだったんだ。初めて会ったときからずっと。高校を辞めて先輩とも離れたけど、でもやっぱり気持ちは変わらなかった。だから、先輩はこれが最後って思ってるかもしれないけど、俺は、」 「ちょ、」  貫太が口を挟もうとする。けれど、和はそれを遮る。今は、貫太の言葉を聞くのが怖かった。 「好きだよ」  畳みかけるように、和は言う。 「ねえ、どうしたら俺を好きになってくれる? 俺、先輩じゃないとだめで、」 「ちょっと待てって!」  そしてとうとう、貫太が叫んだ。貫太の叫びが耳を叩いて、ようやく和も言葉を呑む。唇を噛み、近距離にいる貫太を改めて見やる。  目を、見開いてしまった。 「ちょっと、待ってよ……」  そう言う貫太は、顔どころか耳、首筋まで赤く染めて、そんな自分の顔を隠そうとしているのか俯きがちにこちらを睨みつけていた。 「え」  思わずそんな呆けた声が零れる。そんな和の様子に、貫太はますます頬を赤くした。 「ああ、いや……今日は、そういうことかなってわかってはいた。いたんだけど……ちょっと、待って」  しどろもどろにそんなことを言うからますます驚く。  期待を、してしまう。  甘い。ひどく、甘い。  けれど喉がひりつくような、苦しみもある。  混乱する。 「……ねえ、」  半ば呆けたまま、けれどこれが畳みかけるチャンスであることは和もわかっていた。だから、言葉を次ぐ。貫太は嫌がるようにそっぽを向いてしまう。 「ねえ、もしかして先輩も俺のこと、好き?」  がばり、と貫太が和の方へ顔を向ける。目を見開き、唇は薄く開いてわなわなと震えている。なんてことを言うのだ、と。言ってしまったのだ、と。貫太の表情はそう訴えていた。  そしてそれはつまり、和の問いへの肯定でもある。 「先輩。俺のこと、好き?」  ぐっと顔を近づける。貫太はぶるりと震えた。怯えているように見える。けれど、それは恐怖からの怯えのようには見えなかった。 「ねえ、」 「わ、わかんねえよ!」  さらに距離を詰めようとする和に、貫太は根を上げたように叫んだ。 「わかんない。でも、おまえがいなくなるのは嫌なんだよ。こういう毎日が終わるのかと思うと、嫌で……怖くて、寂しい……」  最後は掠れた声となって空気に音が溶けていった。和はそれを取り込むように大きく息を吸い込む。そして、叫ぶ。 「好きじゃん!」
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