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End of Parade
久しぶりに僕達のサーカスがこの街を訪れた。
この街を訪れるのは数年ぶりだ。国内を流浪する僕達サーカス団は毎年訪れることが決まっている街というのはないし、訪れないと決めている街もない。けれども、ある事情があってこの街に寄りつくことはしばらく難しかった。
サーカスのみなで大きなテントを張り、テントの中の舞台と客席を整える。馬車を使って移動するほどの大荷物なのだけれども、みなテントの設営は慣れたもので夜になる前に済ませることができた。
「さて、明日からこの街で営業するわけだが」
テントの中にみなを集めて、僕達のまとめ役であるラビが口を開く。ラビは厳しい表情をして僕達を見回してこう続けた。
「いつでも逃げられる準備はしておこう」
その言葉に僕達は頷く。
その時だった。テントの外から大きな声が聞こえた。その声はこう言っている。
「我々は領主様からの使いだ。領主様からお話があるとのことなので同行願おう」
それを聞いて僕達の間に緊張が走る。今すぐにテントを畳んで逃げるにも時間が掛かる。テントを捨てて逃げるしかないか。しかし、そんなことをしたら今後の生活が立ちゆかなくなる。
みなが指示を仰ぐようにラビを見る。ラビは深い溜息をついてこう言った。
「彼が我々と言っているということは、人を大勢連れているのだろう。テントを捨てても逃げおおせるとは限らない。
この際付いて行った方がいいかもしれないな」
それから、今度はみなが僕の方を見る。僕はちらりと声のした方を見て、昔のことを思い出してから口を開く。
「領主様が話があると言っているのでしたら、本当に話があるのでしょう。
あの方は嘘をついて人をおびき寄せるようなことはしない方ですから」
僕の言葉を聞いて、友人が立ち上がる。
「ラビとマリリアードがそう言うなら、ついていこう。あまりグズグズしてると逆に怪しまれる」
友人に続いてみなが立ち上がる。それから、テントの外へと向かった。
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