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次の授業は、確か社会だ。前、【次の授業は臨時的だが今の日本がどうやって作られたかをやるぞ】と言っていたから、今日はそれだろう。
異常者の増加に伴い、また洗脳教育をやろうというのだろうか。しかしニュースでは【歴史の授業の改定をするため】と報じていた。
「…私は、日本の歴史の授業って意味ないと思うの。無駄だと思うわ。私のような人が増えるだけ。」
「………」
「けれどね、今はほとんどの人が洗脳状態にあるのよ。だからこそ、日本はこの政治を続けていく事ができる。」
キサラギさんは空を見上げる。その瞳はどこかせつなくて、哀しそうで、それでいて力強い意思を持っていた。
日本で【日本人は洗脳されている】などと言ったらまず異常者扱いされること、異常者施設送りにされることは間違いない。
このご時世、どこに録音テープやカメラがあるのかも分からない。
それでもこの現実を受け止めながらも、自分の意見を貫くキサラギさんは、間違いなくかっこよかった。
「僕も、異常者の世界を見てみたい…。一緒に行くのは駄目ですか?」
「…良いの、キミは。キミには正常者の世界にいてほしい、頑張ってほしい。そして、もし私の事で世界が変わったら、教えてほしい。」
「でも…っ…!」
「キミには使命がある。正常者の世界で、生きていてほしい、生き抜いてほしい。この幾千の星の中で、キミには普通に生きていてほしいから。」
僕はうつむく他なかった。キサラギさんは微笑んでいたけど。僕は、強くなりたいと心の底から願った。
僕は、この世界の、キサラギさんになりたい。
「ねぇ、知ってる?異常者との面会も出来るんだよ。」
「…え?」
「わざわざ行こうという人はいない。けれど、いける。会えるんだよ。そこは何故か監視対象外なんだよ。私は異常者になる前に行ってみたい。」
「…………」
「家族からは、猛反対を受けた。けれど、私は行く。どうせ異常者になるんだから、自由なうちに行っておかないと!」
そう言ってキサラギさんは弁当をしまって歩きだす。さっさと去ってしまうキサラギさんを、僕は必死に追いかけた。
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