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ねこが見ていた
出張から帰った俺を出迎えたのはムギだった。茶トラのメス猫だが、こんなことはめったにない。恐らく何か居心地の悪いものがリビングにあるのだろうと思っていたら、三和土の靴に気がついた。
「お帰り」
奥から現れたヒトミと入れ替わるようにムギがリビングへと帰っていった。
「ただいま……って、どうしたの今日は。ミカは?」
「ヒナちゃんが急に熱出しちゃって。でもお姉ちゃんは今日、人手が足りないとかでどうしてもパート抜けられないからって連絡が来たの」
そういうことか。幼稚園で娘が熱を出した。俺は出張だし、妻はパートを抜けられないから代わりに彼女の妹が幼稚園へ迎えに行ってくれた。そのまま娘の面倒を見てくれていたのだろうが、なぜだかヒトミはムギと相性が悪く、彼女が家に来るとムギは落ち着きがなくなる。だから玄関に避難していたのだ。
「それで、ヒナは?」
「病院に連れてって、薬飲ませて、今は寝てる」
「そっか。ありがとな」
「いいのよ。それより夕飯どうするの?私作ろっか?」
「ありがと。でもパートの日はミカがお惣菜買ってくることになってるから。たぶんお前の分も買ってくると思うよ」
「やったー。じゃあ待ってよ」
リビングに向かう途中で子供部屋のドアを開けた。娘の額に手を当てる。どうやら熱は下がったようだ。薬が効いたのだろう。起こさないようにそっと部屋を出た。
「ねぇ。お姉ちゃんが帰ってくるのって、何時?」
ソファに寝転んだヒトミが俺を見上げる。
「たぶん、8時ごろになるんじゃないかな」
「そっか。だったらまだ1時間以上あるね」
彼女は怪しく笑うと、
「それまで、なにする?」
その眼差しに淫靡な色が浮かんだことで、俺は彼女の目論見に気づいた。
「おいおい。まさかここでやるわけないだろ」
「どうして?」
「ここは俺とミカの家だぞ。さすがにまずいだろ」
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