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「だからじゃない」
ヒトミはゆっくりと体を起こしながら、
「背徳感って言うの?逆にそのほうが私、いつもより燃えちゃいそうなんだけど」
その手はいつの間にか俺の下腹部に伸びていた。
ソファに仰臥した俺の上でヒトミが果てた。ぐったりとしなだれかかる彼女と入れ替わり、今度は俺が上になった。
「もうダメ……」
吐息を漏らすのも聞き入れず、さあこれからだと体勢を整えたところで視界に茶色いものが見えた。ちらりとそちらに視線を移すとムギだった。廊下からこちらをじっと見つめている。
「あ……」とつい声が漏れた。
「どうしたの?」
「いや、ムギがね、じっとこっちを見てるからさ。さっきから俺たちがやってるとこも見てたのかと思って」
彼女も首をひねりそちらを見て、そしてフフッと笑った。
「いつもは私のこと避けてるくせに、こういうことには興味あるんだ。いいじゃん。見たけりゃ見せてあげれば」
ヒトミが両手で俺を引き寄せた。キスをしたまま、俺は律動的に腰を動かしはじめた。
押し殺した彼女の声とソファの軋む音がリビングに響く。
やがて俺も絶頂に達し、彼女の中で果てた。
廊下のほうに目を向ける。
ムギはいつの間にかいなくなっていた。
それから三日後のことだ。
妻が娘を連れて家を出て行ったのは。
浮気には細心の注意を払っていた。相手が義理の妹なのだからなおさらだ。あの日にしても妻が帰るまでにことは済ませたし、痕跡はまったく残していなかったはずだ。消臭剤を撒き散らし、ヒトミに使用済みのティッシュを持ち帰らせるほど気をつけていたのだ。それなのになぜバレたのか……。
慌しく荷物をまとめた妻が玄関から出て行く間際、振り向きもせず口にしたセリフが気にかかる。
「ねこが見ていたのよ」
確かそんな風に聞こえた。どういう意味だと呼び止める前に、ドアはぴしゃりと閉じられた。
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