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「わしが先に見付けたのだ。他の輪を見つけよ」
「師匠は僕の居た箱に入って来たじゃないですか! 」
「知らん、ここはわしの輪だ」
頑固な師匠に僕はストレートな質問をぶつけた。
「師匠は何故あの犬に関心を持つんですか」
少しだけ師匠の体が傾いた。
「他の犬には目もくれないのに、あの犬だけ見に行きますよね」
師匠があの人間の家に寄り付くのは数日に一回だけだ。他の場所に比べると避けている様にも思える。
にもかかわらず近くに行った時は遠巻きに庭を眺め、塀の上まで行く日は長めに滞在したりする。
あの場所は師匠にとって何かあるとしか思えなかった。
「トモエって師匠の名前ですか? 」
気づけば師匠は太陽を描いた輪から押し出されて宙を眺めていた。
「師匠はあそこで飼われていたんですか? 」
太陽の輪の中で僕はそう訊ねた。
顔を合わせないまま師匠は、違うとだけ漏らした。
「師匠は飼い猫に戻りたいのでしょう」
師匠の猫パンチは避ける事が出来ない。
真の猫は野良だと言いながらやはり飼い猫が良いのだろうか。
「猫は犬ではない。猫なのだ」
師匠は僕が追い付けない速さで去ってしまった。
猫が犬では無い事位わかる。大体あの犬の様に首に縄を付けられて行動を制限されるなんてゾッとする。でも飼い猫は繋がれるなんて事は無いじゃないか。
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