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覚えた匂いを感じて僕は四角く開いた空に向く。
いつも通り大きくて奇妙な姿の生き物が僕を覗き込んで声を掛けて来た。
優しくて心地良い声だけれど言葉を知らない様で何を言っているのか分からない。ただいつもそっと撫でてくれたり軟らかい食べ物をくれる。
壁に囲まれたここに留まっている僕にとって生きる術はこの生き物を待つ事だけだった。
以前は兄弟がいた。
壁の中6匹で寄り添っていたんだ。その頃からこの生き物はたびたび僕達に食べ物を運んくれていたけど、別の個体が時々現れる事もあって、その中の何匹かが僕の兄弟を一匹ずつ捕まえて去って行った。残った僕を覗きに来る個体もいたけど連れ去る者はなかった。
こうして居られるのは良い事か悪い事か分からないけど、ひとまず餌にありつけるのはありがたい。
彼は大抵僕が食べ終わる前に姿を消している。後は四角い囲いの中でまた一匹きりだ。それが僕の日々。それが今日は違った。
音も無く僕の前に背の高い成猫の雌猫が現れた。空から降って来た。
艶やかな三毛の毛並みにすっとした立ち姿はどこか神秘的で、ゆっくり揺れている尻尾は特徴的で美しかった。
その猫は僕を一度見まわした後、ドカッとそこに寝そべって丸くなった。大きな彼女がそうすると僕は隅っこに追いやられるしかなかった。
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