降って来た

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「誰ですか」  声を上げると相手は緑の目をチラッと開いてまた閉じた。 「何ですか突然」 「箱がある、猫が入る。至極当然の事だ」  よく分からないけど酷く説得力のある言葉に僕は何も言い返せなかった。 「その(つら)が原因だな、拾われはせんぞ」  僕の顔には大きな傷がある、兄弟が言っていた。いつ何でついたかは知らないけど目立つ傷だ。そのせいか目つきもかなり悪い様だ。それを言ったのだろうか。しかし唐突過ぎる。 「拾われ? 」 「(わらわ)よ、兄弟の様に人間に拾われるのを待っておろう。無駄だ、ぬしに愛嬌は無い。媚びるな、無理をしたとて猫は猫としてしか生きられん。猫は猫として生きよ」  この言葉からするとこの(ひと)はずっと見ていたのだろうか。兄弟が次々拾われるのを。僕があの生き物、人間?から餌をもらうのを。 「猫と人間は友人ではない、利用し合うが一番良い距離なのだ。たがえれば不幸になろう」  言うと彼女は身を起こし真っすぐ向いた。 「猫として生きたくばついて来い」  何を言われているのか子供の僕にはよく分からなかった。けれどこの猫の瞳の中に何一つ否定するべき理由を見つける事が出来なかったんだ。  待っていれば餌が貰える日々から、囲まれた狭い世界から、抜け出すべきだと本能が告げていた。猫はこの中で完結してはいけない。箱は入る為の物ではあっても出られない物であってはいけないんだ。  気付けば僕はお願いしますと答えていた。 「ならば師匠と呼ぶが良い」  師匠はちょっと胸を張って尻尾を揺らした。
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