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犬は巨大な顔を僕に近づけて来た。思わず前足でその鼻先を殴ってやるが相手はちょっと驚いて見せただけですぐにまた顔を寄せて匂いを嗅いで来る。
両前足を上げて威嚇するも全く意に介さない。この巨大な口でパクリとやられたらひとたまりもないだろうけれど師匠が言う様に襲う気は無い様だった。
気になったのはこの生き物がとても臭かった事だ。何とも言えぬ悪臭を放っていてそれがどうにも気に入らなかった。
「こいつ臭いです」
言えば師匠はどこか悲し気に少しだけ耳を倒し、まぁそう言うなと答えた。
犬は師匠をべろべろと舐め尾をパタパタ振った。こんなに尾を振るって事は攻撃する気か?と身構えるが、師匠が言うには犬は猫と違って親愛の情を示すのにこうするのだそうだ。
そうしていた犬だがやがて小屋の傍に置いてあった器を咥えて師匠の鼻先に置いた。
そこにはほんのり美味しそうに香る粒が幾らか入っていた。
師匠はそれをためらいも無く口にした。
カリカリと言う小さな音が僕のお腹にも響いて来る。やはり食べ物なのだ。
なぜ犬が師匠に餌を与えるんだろう。そんな疑問が過ったけれど、あとはやるという声の前にはどうでも良くなった。
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