犬と猫

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 人を強引に二つのタイプに分けるなら、猫タイプと犬タイプだろうと思う。  俺はよく大型犬みたいだと言われる。そして「温厚な家庭犬じゃなくて、猟犬の方な」と付け加えられる。  俺を大型犬だと言うその人は猫タイプの人だ。綺麗な瞳の表情がくるくる変わって翻弄される。   でもその振り回される事すらも楽しいと思ってしまうから、本当に猫みたいだ。 「なぁ菱川。映画、とか行かねぇ?」  ベッドを背もたれにして座っている俺に寄りかかって、結城先輩が言う。 「いいっすよ。何か観たいのあるの?」 「観たいの…は、これから考える…けど…」  言い淀んだ先輩が、ふいと離れていく。  これはもしかして… 「何?ただどっか行きたいだけ?」  冷蔵庫前で先輩を捕まえる。後ろから抱きしめようとして、するりと逃げられた。  抱かせてくれない猫みたいだ。 「…ちょっと、お前とデ…出かけたいなって思っただけだっ」  ん? 「先輩、今、デートって言いかけたっしょ」 「いっ言ってないっっ」  耳まで赤くして睨んでくる様が、毛を逆立てた猫みたいで可愛い。  強引に抱き寄せて暴れる身体を撫でると、徐々に大人しくなって俺に身体を預けてくる。 「行きましょ、映画。俺、何でも観ますよ。アニメでも、アクションでも、恋愛ものでも」 「…お前と恋愛ものなんか観れるか…っ」  不機嫌そうな声で言いながら、ぎゅうと抱きついてくるから堪らない。  綺麗で気まぐれ。  触るなと逃げたり、かと思えば、撫でろと擦り寄ってくる。  それに。  めっちゃ爪立てるしな 「映画のおすすめサイトでも見てみますか?」 「うん…」  男にしては細い、柔らかい曲線のその身体を抱きしめる。 「どこへでもお供しますよ。なんせ犬ですから」  そう言うと「バカか」と言って先輩が笑った。  ゆるゆるとした午後の光が狭い部屋に満ちていた。  さて次の休日、何を観に行きましょうか。  ねぇ、先輩。  了
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