21、視線の先、カウントダウン

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 晴れて恋人同士になったものの、俺と浅利さんの関係性はあまり変わらなかった。  受験生なのだ。大っぴらに遊びに行けないし、メッセージのやり取りばかりしているわけにもいかない。  放課後、教室や図書室で一緒に勉強したり、駅まで一緒に帰ったり、夜寝る前少しだけメッセージを交わす程度だ。  それでも、ただ見ていただけの頃よりずっといい。  新しい関係性にぎこちない雰囲気になることはあるけれども、普通に話が出来るようになったことがとても嬉しい。  しかしながら、浅利さんの視線に晒されるのはまだ慣れない。  彼女が好きなものを凝視し愛でることは知っていたが、それが自分に向けられると非常に落ち付かない気分になる。  視線を向けてくれないかなとずっと思っていたのに、現金なものだと自分でも思う。 「……すげえ見るね」 「あ、ごめん」  放課後。  茜色の陽が入る教室で二人きり。  机をくっつけて向かい合い勉強しているものの、浅利さんの手は時々止まる。全然勉強に集中できていないことが丸わかりだ。  俺は手を動かしながらも、ちらりと視線を向けた。  ポニーテールの髪は夕陽に照らされて淡い色。眼鏡の向こうの真ん丸の瞳は俺のことを見ている。 「あんま見られると緊張するんだけど」 「幸村くんも緊張することあるの? 意外」 「するでしょ、普通に」 「面白いね」  不貞腐れたように言えば、くすくすと笑われた。手を完全に止め、休憩モードになってしまっている。  くそう。こいつは俺が動揺するかどうかなんてお構いなしだ。  俺が告白してからどきどきするようになったとか言っていたくせに、いざ付き合い始めて距離が近くなると、結局俺の方がどきどきさせされている。  なんだか悔しくて、俺も手を止めた。  それからじぃっと見つめ返してやれば、彼女はきょとんと目を丸くした。  ――そっちも、動揺すればいいさ。 「鑑賞代として、五秒後にキスを要求する」 「え?」 「五、四、三」 「ま、待っ」  ゼロになるまで待てなかった。  おしまい
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