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久しぶりにかけられた声に、どきりとして足を止めた。しかしずいぶんと硬い声。
振り返れば、怒ったような顔をした浅利さんが仁王立ちしていた。
えっ、怖い怖い。俺、なにかしたっけ? 久しぶりに話しかけられた嬉しさよりも、恐怖の方が勝り、若干身構える。
「な、なんでしょう……」
「ちょっと言いたいことがあるんだけど」
「はい……」
「来て」
俺を追い越して、浅利さんはずんずんと廊下を進んだ。慌ててその背を追う。
前にもこんなことあった。真柴センセの件で互いに謝った時だ。
あの時と同じ、廊下の隅に来たところで彼女はくるりと振り向いた。ポニーテールが勢いよく舞う。
「…………」
「…………浅利さん?」
向き合った形になったものの、浅利さんは逡巡するように俯き、なかなか発言しない。
マジでどうしたと思って顔を覗き込むと、ようやく小さく呟いた。
「……付き合うの?」
「え?」
「後輩の子と……」
「え? なんの話?」
再度問い返すと、彼女は顔を上げて、こちらを睨みつけてきた。
「さっき、聞こえちゃったの。後輩の女の子から興味を持たれてるって。その子と付き合うの?」
ようやく、裕也との会話を指していることに気が付いた。
え、俺のこと気にしてくれてる? ちょっと嬉しくなったものの、平静を装って首を横に振った。
「付き合わないよ。ていうか会ったこともないし」
「その子から好きって言われたら?」
「えー……?」
会ったこともない子との仮の話を出されて、俺はよく分からず首を捻った。浅利さんは眉を寄せたまま。
ひょっとして、俺は叱られるのだろうか。相変わらず女の子と偽善的な付き合いをしていると思われていて、それを咎められる?
そう考えたら、浮付いた気持ちが一気に沈んだ。
そもそも、なぜ浅利さんに怒られなければならないんだ。俺のことなど全然興味ないくせに。
「……なんにしても、浅利さんには関係なくない?」
「ある」
「ないよね」
小さく一つため息をついて浅利さんを見ると、彼女は意を決したように見つめ返してきた。
それがあまりにも真剣な眼差しだったので、俺は一瞬息が止まった。
「待っててほしいの」
「え?」
「幸村くんが好きって言ってくれて考えたの。私も幸村くんのこと好き」
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