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その言葉に、固まった。
「幸村くんの言葉を疑うようなこと言って本当にごめんなさい。あの時は驚いて、よくないことを言ったって反省してる」
俺が告白した時のことだろう。
『幸村くんは自分を好きな人を好きって言ってなかった?』という、動揺の言葉。
「正直、今まで意識してなかったの。でもあれから幸村くんのこと急にどきどきするようになっちゃって」
「…………」
「ただ、少し前まで先生の話してたし、急に好きだって気付いたと言っても信じてもらえないだろうし、虫が良いって思われるんじゃないかと思って……」
唖然としたままの俺をよそに、彼女は続けた。
きらきらの瞳と上気した頬から、彼女がどきどきしていることが伝わる。
でも俺の方が、きっともっとどきどきしている。
「ていうか私、そもそも幸村くんの過去の彼女と比べて全然違うっていうか、だめなんじゃないかと思って、それで」
「それで髪型変えたりしてたの?」
途中で言葉をかぶせるように言えば、浅利さんは小さく頷いた。
やばい。めちゃくちゃ胸が熱くなって、俺はシャツの真ん中を掴んだ。鼓動を打つ心臓が口から出そう。
俺がぽろりと告白した瞬間は唖然としていた浅利さんだけど、俺の言葉を真正面から受け止めてくれていた。そして、考えてくれた。
センセにも気持ちを伝えなかった彼女が、俺には勇気を出してくれている。それがとてつもなく嬉しい。心が熱くなって動けない。
「幸村くんとおしゃべりするのすごく楽しくて、でも気まずくなっちゃって悲しくて……、こんなこと言うのおかしいって分かってるんだけど、でも考えて欲しいっていうか、待ってて欲しいっていうか」
「やだ」
「え?」
「待たない」
困惑したような、少しがっかりしたような目を向けられる。
そういう意味じゃない。俺はシャツを握っていた手を伸ばし、彼女の頭の真っ白のシュシュにそっと触れた。
「今までの浅利さんもすごい可愛いし、今の浅利さんもめちゃくちゃ可愛いし、好き。だから待たない」
そのまま手を滑らせて髪に触れたかったけど、やめた。
少しかがんでうつむき気味の顔を覗き込むと、彼女は上目で見つめ返してきた。
「彼女になってくれる?」
「いいの……?」
「もちろん。むしろ俺でもいい? こんなんだけど」
いつか苦言を呈されたピアスを指で示せば、彼女はくすりと笑って頷いた。
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