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半分程開けた窓から暖かい風がふわりと入ってきて、レースのカーテンを大きく揺らした。
日頃、散歩などしない僕であったが、誘われるように外に出たのはきっとこの陽気のせいだ。
川岸の土手の上の細い遊歩道をのらりくらりと歩く。空を見上げると陽射しが白く照りつけ、川の水面がキラキラと輝いていた。
土手の階段を降りて腰をかがめ、すっと右手を伸ばして水面に触れた。心地良い冷たさだった。
すると、どこからか鳴き声が聞こえる。何処かの赤ん坊か。そう思ったが、何となく弱々しいその声が気に掛かり、その方向へ歩いてみた。
声は徐々にはっきりと聞こえるようになった。
「この辺りか?」
足を止めて見渡してみた。
膝ほどの高さのやぶが小さくモゾモゾと揺らいだ。そこから一匹の白い小さな猫がヨチヨチと現れ、僕の足首に体を擦りつけてきた。そして、僕の顔をまっすぐに見ると、か細い声で「にゃー」と鳴く。それを何度も繰り返した。
僕は顔を近づけた。仔猫は嬉しそうな顔をして笑った。そしてまた執拗に小さな小さな体をこすりつける。
野良猫が子供を産んだのか、飼い猫が産んだ仔猫を飼い主がここに捨てたのかはわからないが、僕はこの仔猫の期待に応えることは出来ないと思った。両手でそっと体を抱え、少しだけ遠くへ置くが、何度やっても「にゃー」と鳴きながら寄ってきては体を擦りつける。でも、やっぱり僕には・・・・
僕は、子猫を草の間に戻すと、力いっぱいに走り出した。途中、何回も振り返ろうかと思ったが、その気持ちは断ち切った。
空を見上げる。白い太陽は何事もなかったかのように暖かい陽射しを照りつけている。
散歩などしなければ良かったな。そう思った初夏の日だった。
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