ノクターン

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 夜は泣きたい放題だ。深夜ならなおさら。月に照らされながらも、太陽が出ている朝と昼よりは、泣いていることがバレない。  誰もいない深夜。冷たい風が吹き抜けて、私の頬をそっと叩いた。ヒリヒリ痛む頬に、私はまた涙が出てくる。精神的な痛みのせいか、物理的な痛みでさえも涙が溢れだした。物理的な痛みと言っても、ただ凍てついた風が私の頬に当たっただけなんだけど。それでも、今の私には猛烈に痛かった。頬よりも、心が。  街灯が当たらないブランコに座りながら、私はコンビニで買ってきた缶ビールを飲む。月が綺麗ですね、なんて言葉。愛してるって意味を込めなくても、言うだけで涙が出てきそうだ。 「……病むわぁ」  あ、今の若者はメンブレって言うんだっけ。メンタルブレイク、略してメンブレ。  そんなどうでもいいことを考えながら、また缶ビールを飲んだ。苦い麦汁が心に染みる。もうこうなったら今夜はやけ酒だ、やけ酒。千鳥足になるまで酔っ払ってやる。 「何だよ結婚って……」  ぐすっと鼻を啜りながら、ぐびぐびと酒が進む。酔おうと思ったら酔えない。そんな自分が嫌いだ。 「二股された挙句、できちゃった婚? バカ言わないでよッ……」  缶ビールを一気に飲み干すと、「あの野郎……」とボタボタと涙を零しながら言った。あんたの為に、どんだけ可愛くなろうと思って努力したと思ってるの。普段着ないような花柄のワンピースなんて着ちゃってさ。メイクも気合入れてさ。  二股された挙句、若い女に負けた私が滑稽に思えてくる。今までの私が過ごした時間は、一体何だったって言うんだろう。 「おばさん、大分荒れてるね」
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