ノクターン

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 イラっと来た。酷い失恋の仕方で傷心中だっていうのに、もっと優しくしろ。  私はレジ袋の中から一本の缶ビールを取り出すと、二階堂に向かって投げた。二階堂は「うわっ」と言って缶ビールをキャッチすると、「危ねぇなぁ」と言う。 「サンキュー、いくら?」 「お金は良い。その代わり、付き合え」 「……え? お前、いくら何でもあんな失恋したのに、次の男って──」 「違うわッ、誰があんたと付き合うかッ」  私が声を荒げて言うと、「まじになるなよ、冗談だって」と二階堂が言う。もうちょっとひょうきんな冗談を言ってほしかった。私は二缶目も物凄いスピードで飲み干すと、三缶目を開けた。まだ酔えてない。夜の凍えるような寒さのせいか、目は冴えてしまっている。 「付き合って、5年。そろそろ結婚来るかなーって思ったら、まさかの二股。挙句の果てに、あいつは向こうの女を妊娠させるし。それでできちゃった婚。笑えるわー。本当に、笑える。この5年間、あんたのこと好きだった私の時間を返せってのッ!」  私は缶ビールのプルタブを開けると、ぐびっと飲んだ。涙がまだ溢れてくる。 「で? あんたは何でここにいんのよ」  私が缶ビールをゆっくり飲む二階堂に話を振ると、「残業」と二階堂が言った。 「それで終電は逃すし、タクシーは捕まらないし。そしたら公園ですっげぇ酒飲む女がいたから誰かと思って来てみたら、一戸だし」 「残念そうに言わないでくれる? 悪かったね、あんたの同期でピチピチの若者じゃなくて」 「若者を僻むな、29歳」 「年齢言うなしッ」
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