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それにしても、腹が減った。
せめて最後に、食べかけの煮干しでも食べてくればよかった。
でも、俺は猫。
元は肉食の生き物だ。
眠っている狩猟本能を、呼び覚ますのだ。
見渡せば、草むらにはカエルをはじめ、小さな昆虫。
上を見れば、小鳥なんかも視界に入る。
自慢の忍び足で近づき、持ち前の瞬発力で、一気に襲い掛かる──。
……そんな怯えた顔するなよ。わかった、今日だけは見逃してやるよ。
俺は自分の不甲斐なさに落胆しつつも、食べ物の匂いのする方へと足を進めた。
この生臭い匂いは、ゴミ捨て場だ。
かつてはそこに群がる痩せこけた野良猫たちを、威嚇したことがある。
御主人様が、困った顔をしていたからだ。
扉が閉まっていない。
いや、閉まりきっていない。
引っ掻けば、簡単に裂けるであろう袋が、飛び出している。
俺は周囲を警戒しながら近づいたが、袋に爪を立てる瞬間、御主人様の言葉を思い出し、その場を後にした。
御主人様は、あのとき、困った顔で言っていた。
「あの野良の子たちは、このままでは処分されてしまう。でも、放っておくと、私たち人間が困ってしまう」
結局は俺が威嚇して、ついでに説得をして、時々家の残飯を持って行って。
なんとか御主人様が悲しい思いをしなくて済んだことを、知っているだろうか──。
それにしても、あー、腹が減った……。
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