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歩いていると、低いうなり声がした。
庭先の犬が、俺の存在に気づいたようだ。
「この家は漁るなよ?」
「安心しろ、そんなことはしない。それよりも、なんか食い物残ってないか」
「おまえにやるものなんか──って、おまえその首輪、御主人様がいるのか?」
俺はふと気づき、なんとか外そうと試みたが、上手く外せない。
「おいおい、やめておけ。御主人様が見たら悲しむぞ。気にいらなかったのかって、落ち込むから」
なるほど、一理ある。
俺は猫。勘違いされているが、それなりに賢い生き物だ。
時々御主人様も、テレビでどこかの猫の間抜けな姿を見て微笑んでいるが、あれはパフォーマンスだ。
どうすれば人間が笑ってくれるのか。
そのくらいのことは、飼い猫なら学習済みだ。
しかし、俺の決意は固い。
俺は野良に戻るのだ。
「なぁ、食べ物はいいから、これ、外してくれないか?」
「いや、だから。おまえもわからない奴だ。これだから猫は──」
「頼む! そこをなんとか」
「仕方ない奴だ。じゃあ、こっちにこい」
俺は庭に置いてある犬小屋へとついていった。
「まぁ、とりあえず、こんなものしかないけど、食えるか?」
「おお、すまんな」
俺は飲みかけの水と、初めての犬の餌を食べた。
少し味が薄いが、何もないよりはまだマシだった。
「おまえ、そんなにそれがうまいのか?」
「いや、全然。やっぱり味が違うんだな」
「じゃあ、よほど腹が減っていたのか?」
「え? なにを言ってるんだ?」
戸惑う俺に、犬は不思議そうな顔で言った。
「いや、だって、おまえ。さっきから、ずっと泣いてんじゃん」
「……気づいていたのか」
「まぁな。人間と違って涙なんて流れやしないけど、気配と心臓の音でわかるからな」
「そうだな。あまりにおまえの餌がうまくて、感激しちまったよ」
「……話してみな。いろいろ、聞いてやるから」
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