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俺は事の顛末を説明した。
嘘は言っていない。
どうやらこの犬は、俺の心臓の音まで聞き分けるらしいからだ。
しかしそれは、俺も同じこと。
むしろ俺の方が、倍近く聞こえている。
こいつの心臓が、やさしくゆっくりと脈打つ音が。
当然、倍近く聞き分けてもいる。
こいつの声に、俺に対する憐みの心が含まれていることを──。
「なるほどな。おまえの御主人様には悪いけど、変な男を捕まえたんじゃないのか」
「……だよな。どう考えてもおかしい」
「おまえに会うと必ず泣くなんて、女々しいしな」
「あぁ。鼻水もとめどなく垂らして、みっともない」
「それでもおまえは、出ていくんだな?」
「仕方ないだろう。御主人様のためだ」
俺は猫、気まぐれでツンデレと思われがちだが、しっかりと忠誠心を持っている。
御主人様の幸せの邪魔をするなど、言語道断。
あの男は頼りないが、御主人様の気持ちは本物だ。
あの男と一緒に居るときは、心臓の音が早くなったり、ゆったりとしたり。
不安定になる。
それが愛であることは、学習済みだ。
御主人様が子どものころから長年見てきたし、なによりも──。
俺自身が御主人様といるときに、同じようになるからだ。
「わかった。でも、首輪は付けておけ」
「なんでだ?」
「野良猫だとわかったら、やさしくないからだ。人も、俺たちや飼われている生き物も。どうなるか、わかっているだろう?」
「……そうだな、すまん」
「わかったら、そろそろ行け。もうじき朝が来る」
「あぁ、わかったよ。ありがとうな」
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